死のかげの谷間

  • ロバート・オブライエン「死のかげの谷間」評論社

戦争が終わり、世界は死んだ。
その世界で、アンはひとり生き残っていた。
風の通らない谷間にはまだ緑が生い茂り、川のせせらぎも清冽さを保っている。
家畜を育て、作物を収穫し、彼女はひとりで生きていた。
ところがある日、山の向こうで異変が起こる。
ひとすじの煙。それは彼女以外の誰かがまだ、この世界にいるという証だったー。

世界にたったふたり、それも男女が残されたら。世界の終わりは世界の始まりでもあります。
物語は主人公であるアンが記した日記の形式で語られていきます。家族を失った悲しみは、誰かと出会いたいという熱望へとかたちを変え、彼女はその日を心待ちにします。その誰かが現れるまでは。
アンの寂しさ、恐怖、そして喜びは文章から溢れだし、彼女の未来を知りたいという気持ちがどんどんページをめくらせていきました。出会いたい、でも出会いたくないという相反する感情が丁寧に描かれ、それが物語をより深く、より残酷にしていると思いました。
ふたりは出会い、そして世界はどう変わるのか?
結末にわたしは安堵しました。でも同じくらい苦しくなったのです。

死のかげの谷間 (児童図書館・文学の部屋―SOSシリーズ)

死のかげの谷間 (児童図書館・文学の部屋―SOSシリーズ)