スロットルペニー殺人事件

  • ロジャー・J・グリーン「スロットルペニー殺人事件」評論社

高級食料品店の店主、エゼキエル・ドブソンが殺された。亡き妻の墓の前に倒れていた彼の頭には、大きな傷が残されていた。
容疑者として捕らえられたのは、十三歳の少女ジェシー。ドブソンの店で働いていた彼女は、常日頃彼からひどい仕打ちをうけ、殺人の行われた夜は、現場から手に石を持って走り去る姿が目撃されていた。しかし彼女は事件について一言も語ろうとはしない。誰もが彼女の犯行だと疑わないまま、裁判の日は近づいて……

ジェシーはドブソンを殺していない」
それは冒頭で明確に示されています。それなのになぜ彼女は捕らえられたのか。彼女自身と、彼女の周囲の人物たちの行動や心情が詳細に描かれることで、その理由は鮮やかに浮かび上がってきます。
ジェシーを信じる人、憎む人、見下す人、愛する人、そして慈しむ人。立場は全然違うのに、彼らひとりひとりの気持ちに対して同意や共感だけでなく、反発や不快感を覚えることもありましたが、理解することはできました。それは、なぜ彼らがそう思うのかが、これまでの生き方や経験をしっかりと説明したうえで描かれているからだと思います。


最悪の結末は免れた。読み終えてすぐはそう思いました。
でも果たしてそうだったのでしょうか?
わたしにとって、物語のその後に訪れるはずの、彼女の幸福を想像することはとても難しかったのです。


人は、自分が見たいものだけを見て、聞きたいことだけを聞く。
人が、最後の最後に守ろうとするのは自分自身。
物語を通して、強く強く感じたのは、そういうことでした。


よかったら読んでみて、なんて気軽には勧められない。でも読んでもらいたい。
そういう作品です。

スロットルペニー殺人事件 (ヤング・アダルト・海外傑作ミステリー)

スロットルペニー殺人事件 (ヤング・アダルト・海外傑作ミステリー)